kenchanaska’s blog

主に作詞をやっております

上京物語

あれは20年前のある晴れた春の朝

いつもの朝だけど

いつもの朝じゃない

 

 

いつものように朝食の食パンを食べ

ミルクを飲み

歯を磨いて顔を洗った

 

そう、それは上京の日

いつもの朝だけど

いつもと違う緊張感があった

 

父と話した会話の内容は覚えていない

母と話した会話の内容は覚えていない

ただいつものような朝だった

 

出勤間際の母が

”気をつけて行ってきてね”

そう言った

”元気でやるんだよ”じゃなく…

 

そう、それは上京の日

いつもの朝だけど

母の言葉が耳に残った

 

荷物を抱え

ひとり新幹線のホームに立った

”僕は生まれた街を捨てるんだ”

想いが溢れた

 

新幹線に乗り込み

発車のベルが鳴る

いつもの街が滲んで見えた

 

そう、それは上京の日

いつもの朝だけど

僕はこみ上げるものを抑えきれなかった

 

東京は楽しい街だったけれど

寂しい街だった

ひとりが好きな僕でも

孤独で心が震えた

 

僕は田舎に戻る決心をした

夢破れた僕に

救いの手があるかわからなかったけど

もう戻るしかなかった

 

生まれた街は温かかった

数年行ってなかった店の人や床屋さんが

”帰ってきてくれたの!”

陽だまりのような温もりが嬉しかった

 

本当に大切なことに気づいた

それは東京には無く

生まれた街にあった

 

それがわかっただけでも

上京の意味はあった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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